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番組オープニング「見たことない魔物」のガビガビさの定量的分析

2026-03-18
コラム見たことない魔物統計

はじめに

じもきらでは第3話から第87話まで、動画の冒頭に日向坂46 四期生楽曲である「見たことない魔物 (通称 魔物)」が使用されていました。 そして、そのオープニングの魔物の音質は、オリジナルのものとかけ離れていたことでよく知られています。 第88話以降は、同じく日向坂46 四期生楽曲でありきらりんの初センター曲でもあるSurf’s up girlがオープニング曲となったのですが、その音質はクリアだったため、なぜ魔物の音質だけが悪かったのか謎が深まることとなりました。

この記事ではそんなじもきらのオープニング魔物について、なぜ魔物の音質だけが悪かったのかに深く立ち入ることはせず、放送回ごとの魔物の音質の悪さ、つまり魔物のガビガビさの傾向について分析していきたいと思います。

まず「魔物がガビガビってなんのこと?」と思われる方のために、実際の音源を聞いてみましょう。 まずは、オリジナルの見たことない魔物です。

続いて、じもきらのオープニングにおける見たことない魔物です。 ここでは第10話を例として挙げています。

オリジナルの魔物と比べてじもきらの魔物は、ノイズが入っていてボーカルもほぼ判別できなくなっており、音質がガビガビになっていることがお分かりいただけたかと思います。

この魔物のガビガビさを定量的に捉えることで、じもきらにおけるガビガビ魔物の傾向を分析するというのがこの記事の目的です。

ガビガビさの指標

今回、魔物のガビガビさを定量評価するにあたって、信号対雑音比(SNR)という量を採用してみます。 このSNRという量は、「ある信号の強さとその信号に含まれるノイズの強さの比」を表す量で、電気工学や画像解析の分野でよく用いられる指標です。 魔物のガビガビさの分析という目的に対して意味のある指標が取り出せそうなので、まずはこの量を用いて解析を進めていきます。

分析結果を見る前に、今回の分析手法について簡単に説明します。

  1. MVの魔物をオリジナル、じもきら各話のオープニング魔物を分析対象とする。
  2. じもきら魔物の信号のパワー PjimokiraP_{jimokira} を正規化する。
  3. 各じもきら魔物について、オリジナル魔物とじもきら魔物の開始位置とサンプル時間を揃える。
  4. ノイズのパワーを Pnoise=PjimokiraPoriginalP_{noise} = P_{jimokira} - P_{original} で定義する。
  5. SNRを以下で計算する。

SNR=10log10PjimokiraPnoiseSNR = 10 \log_{10} \frac{P_{jimokira}}{P_{noise}}

上記の手法で各話のじもきら魔物のSNRを算出しました。 SNRの定義から分かるように、この指標は値が大きいほどクリアな音質で、値が小さいほどガビガビな音質を表すものとなっています。

SNRを用いたじもきら魔物の傾向分析

前節で説明した方法で求めたSNRの値をさっそく確認してみましょう。結果は以下のグラフです。

横軸がじもきらの話数、縦軸がSNRとなっています。なお縦軸の値の大きさはあまり気にせず、値の相対的な大小に注目してグラフを見ていただきたいと思います。

思ったよりギザギザなグラフになってびっくりしましたが、話数によって異なる値が出ているということなので比較はできそうです。 ただ問題は、このSNRという量が実際に感じるガビガビさの指標になっているかどうか、ということなのでその点を確認していきましょう。 第3話から第87話までで、SNRの値ベスト3 (音質がクリアな回) と、SNRの値ワースト3 (音質がガビガビな回) はそれぞれ以下のようになっています。

ベスト3位:第45話

ベスト2位:第56話

ベスト1位:第7話

ワースト3位:第62話

ワースト2位:第76話

ワースト1位:第80話

お聴きいただけると分かるかと思うのですが、かなり違います。 ベスト3の方は誰が聴いても魔物だとは判別できると思うのですが、ワースト3の方を聴いて「魔物が流れているなぁ」と感じる人がいたらその人はちょっと変だというレベルです。 同じオープニング魔物と言ってもこれほどガビガビさに差があるのは驚きですが、それを(細かい大小関係の整合性がとれていなさそうな箇所はあるにしても)SNRという指標で捉えることができるようになりました。

魔物のガビガビさの指標としてSNRを用いる妥当性を確認したところで、改めてグラフに目をやると以下のようなことが言えます。

1. 長期的には魔物のガビガビさは増加傾向

グラフを見ると、全体的にSNRの値が落ち込んでいるように見えます。 数話単位でのSNRの上下を無視して長期的な傾向を掴むために、上記で得られたSNRグラフで移動平均をとったグラフを以下に示します。

このグラフの方が、長期的にはSNRが減少傾向にあった、つまり魔物のガビガビさは増加傾向にあったことが読み取りやすいです。 確かに過去のじもきらを見ると、案外魔物のガビガビさが目立っていない回が多いと感じることもあり、これは感覚に合っていると思います。 また、第20話付近と第60話付近には直近の回に比べてガビガビさが大きい、通称「ガビガビの谷」が存在していたことも分かります。

2. 魔物のガビガビさは話数によってランダム

上記のグラフを見ると、ギザギザしている部分が多い一方で平坦な箇所もあります。 このことから、じもきらの魔物は「前回ガビガビだったから今回もガビガビ」と言うことや「今回ガビガビだったから次回はガビガビじゃない」と簡単に予測することは難しいことが分かります。

そのことを見るために、上記で得られたグラフの自己相関関数を計算してみました。 自己相関関数とは、あるグラフとそのグラフのコピーを横方向にずらしたグラフがどれだけ似ているかを表す量で、仮にグラフに周期的な変化があればその周期分だけずらした時に値が大きくなります。 今回のじもきら魔物のSNRについて自己相関関数を計算した結果が下のグラフです。

これを見ると、ピークは見えるものの統計的に有意である青点線を超える値はほぼありませんでした。 このことから、じもきら魔物のガビガビさには際立った周期はなく、ランダム性を持っていると言えるかと思います。

以上のようにSNRという指標を導入することで、じもきら魔物のガビガビさを定量的に評価することができ、時系列での魔物のガビガビさを分析することができました。

ガビガビ魔物の分類

前節では、各話ごとのSNRのグラフを用いて分析を進めてきました。

このグラフをよく観察すると、SNR=0.5あたりとSNR=-1.0から-0.5あたりにプロットした点が固まっている領域があることに気づきます。 実際じもきらの魔物を聴いていると、同じようなガビガビさのパターンがあるようにも思えます。 そこでこの節では、じもきらのオープニング魔物をそのガビガビさによって分類することを考えていきたいと思います。

さっそく魔物のグルーピングをしていきたいのですが、上記の時系列のSNRのグラフだけでは、特にSNRが低い領域の魔物の特徴が掴みにくいです。 また、SNR=-1.0から-0.5の領域にある魔物に関しても、全て同じグループに属すると考えて良いのか、という疑問があります。

その問題を解消するために、SNRの他にもう1つの軸を追加する目的で、スペクトル重心という量を導入します。 スペクトル重心という量は、音声のエネルギーを周波数(音の高さ)ごとに分割して考えた時にどの周波数がエネルギーの中心かを表す量で、平たく言うと音の高さに関する指標です。 SNRに加えてスペクトル重心を導入することで、じもきら魔物に特徴的な「シャーーー」というノイズを捉えることを期待しています。

以上の背景のもと、横軸スペクトル重心, 縦軸SNRの散布図を作成したものが以下のグラフになります。

このグラフでは右下に位置しているほどガビガビさが強いのですが、SNRだけでは見えてこなかった低SNR領域や中SNR領域の各回の差が読み取れそうです。 そこで、この図を用いてじもきら魔物を以下のように4つのグループに分けてみました。

各グループの説明は以下の通りです。

1. かなり魔物グループ

散布図で左上に位置する、高SNR, 低スペクトル重心のグループです。 このグループに属する魔物の例として、第71話を挙げます。

このグループに属する魔物は、ロボットが歌っているような質感こそあれ、メロディもボーカルも比較的はっきりと聴きとることができます。 このグループに属する魔物は、仮に知らずに聴いても魔物と言い切ることができるでしょう。

2. かろうじて魔物グループ

散布図で中央左に位置する、中SNR, 低スペクトル重心のグループです。 このグループに属する魔物の例として、第57話を挙げます。

このグループは全体の中でもボリュームゾーンとなっていて、最も聴き馴染みのあるオープニング魔物だと思います。 メロディがザラザラとしていて、なおかつボーカルは入っていることは分かるのですが何と言っているのかまでは判別できません。 ここに属する魔物は、典型的なガビガビ魔物と言えます。

3. 魔物じゃないグループ

散布図で中央右に位置する、中SNR, 高スペクトル重心のグループです。 このグループに属する魔物の例として、第17話を挙げます。

ここまでくると、魔物とは認識できない領域になってきます。 ボーカルは当然認識できないのですが、メロディも途中から未知のものに切り替わります。 ガビガビさはさることながら、途中から曲が変わっているんじゃないかと思わされるほどで、このグループに属する魔物はもはや魔物ではないと言わざるを得ません。

4. 地響きグループ

散布図で右下に位置する、低SNR, 高スペクトル重心のグループです。 このグループに属する魔物の例として、第67話を挙げます。

このグループに属する魔物は、もう地響きと言って差し支えないかと思います。 ボーカルが聴こえないのは当然として、メロディも認識不可能になっています。 「シャワーかと思った」「砂嵐」「ラジオで偶然拾った遠くの電波」などの声が寄せられている、魔物ではない何かのグループがここにあたります。

ここまでで見てきたように、じもきら魔物にはある程度のパターンはあって、ガビガビさにも違いがあるということを定量的に示すことができました。

まとめ

上記がじもきらにおけるオープニング魔物のガビガビさの定量的な分析となります。 じもきら魔物のガビガビさは法則性はなくランダムで、長期的にはガビガビさが増加していて、ある程度のパターンに分類できることがお分かりいただけたかと思います。

最後に、この記事はじもきらのスタッフさんの創意工夫への敬意によるものということを強調したいと思います。 じもきらが魔物をガビガビにするというのは何らかの諸事情によるものと想像されるのですが、スタッフさんは一貫して見たことない魔物への熱意と愛情をもってオープニングを制作してくださっていました。 また、「なぜかオープニングの曲の音質をガビガビにする」「なぜか放送回ごとにガビガビの具合を変える」「なぜか地上波放送やYouTubeのプレミア公開ではクリアな音質で流す」など、いまだかつてない方向性のエンタメを視聴者に提供してくれていました。

そんなじもきらの魅力を発信する一つの大きな要素を担ってくれていた「ガビガビ魔物」の奥深さが、この記事で少しでも伝わっていれば幸いです。